”手つなぎゴール”というものがメディアでも時々話題になります。
いわゆる”ゆとり世代”との関連で批判材料の一つとして取り上げられる場合もあるが、はたして”手つなぎゴール”の実態とは、どの様なものか?
また、一方で就職活動、いわゆる就活においてはエントリー段階で勝敗を決める”学歴フィルター”なるものが問題となる場合もある。
これらの意外な共通項についても考えてみたい。
”手つなぎゴール”の実態は?
念のために、説明しますと”手つなぎゴール”と言われているものは、小学校の運動会で徒競走(これ自体もほとんど死語になっているかもしれません)で、速い生徒がゴール間近になると遅い生徒に合わせて、全員で手をつないでゴールするものとされます。
しかし、「いくら、ゆとり教育でも、これはやり過ぎだ」と思う人も少なくないでしょう。
そこで、ネットなどで調べると「ウチの地域では見たことがない。」「きっと都市伝説の1つだ」というのが大多数であるが、これに混じって「実際にあった」というのも散見される。
従って、実際にあるのか、ないのかと言われると実在したと推測される。
但し、実例とされるものでも読んでみると、恒久的に行われていたものではなさそうです。
例えば、障害を持ったお子さんに対する配慮であったり、なかには面倒な保護者、いわゆるモンスターペアレントの要求によるものであったり、特別対応の様です。
では、特別な事情がなく”手つなぎゴール”を行えば、一体何が問題となるでしょうか?
一緒にゴールすることは勝敗を付けないことを意味します。
勝敗を付けなければ、自分の負けを認める機会が失われることになります。
負けに向きあうことで人の成長が促されます。
競争のない運動会と学歴フィルター
1996年6月11日(火)に放送されたNHK クローズアップ現代 No.585 「競争のない運動会」では〜順位をつけない教育改革の波紋〜として問題提起しています。
NHK公式ホームページによると番組の概要はジャーナリストの斎藤茂男氏の取材を元に、「運動会のシーズンに入ったが、最近の運動会は時期ばかりでなく内容がすっかり変わって、徒競走や棒倒しがなくなり、勝負や順位をつけないゲームが増えている。教育現場の変化ととまどいをリポートする。」とあります。
この時期、詰め込み教育への批判や競争社会への不満などから、1980年代以降「ゆとり教育」の教育方針の基、総合学習の取り入れなど各種改革が徐々に実施、2002年からは週5日制となった。
この様な時代背景もあって、順位付けや勝敗を決することに対してネガティブであった思われます。
ところで、最近、学歴フィルターというものがSNSを賑わしてます。
就職活動において、有名大企業が一定レベル以下の大学出身者は門前払い(エントリーできない)ことを批判するものです。
しかし、学歴フィルターの有無に関わらず、人気企業への就職は一定レベル以下の大学では困難であるという現実には向きあってません。
これは勝敗を決めない環境に育った弊害とも見られます。
即ち、自分は順位付けは関係ないと考える一方で、相手(企業側)はしっかり大学を順位付けてみている。
このギャップが問題の本質ではないでしょうか
名言から読み解く、負けの向き合い方
日々、勝負の世界に生きる各界の勝負師たちの名言から「自分の負けを認める」ことについて、どの様に「負けと向き合った」のかを紐解いてみます。
ここで取り上げるのは、将棋の谷川名人、野球の野村監督、ゴルフの杉原プロです。
谷川名人
将棋の谷川浩司 名人によると”負けました”といって頭を下げるのが将棋の正しい投了(試合終了)の仕方とのことです。
将棋では、スポーツの様に審判が試合終了を告げるのではなく、対戦者自身が負けを宣言することで投了となります。
そのため名人といえど敗戦の数だけ「負けました」宣言をしてきた訳で、実際、谷川名人も「つらい瞬間です。でも”負けました”とはっきり言える人はプロでも強くなる。これをいい加減にしている人は上には行けません。」とコメントしている。
余談ですが、谷川名人は新聞の企画で、ある夏の甲子園の観戦記を載せてました。
試合自体は実力差のある対戦で、強豪校が二桁得点で圧勝しました。
谷川名人が着目したのでは、なんと試合終了後の共同インタビュー。
改修前の甲子園では、試合後にベンチ裏の通路で対戦した両校が向かい合う形でインタビューが行われた。(現在は勝者が前、敗者が後ろの縦列の形)
そこでは、勝者側がヒーローインタビューで盛り上がっているのを尻目に、敗者側は敗戦の弁を述べる訳で、非常に厳しい状況で自分の敗戦を振り返ることに、谷川名人は「ここで負けを噛みしめることは今後の人生に繋がる。」と将棋の投了の場面とダブらせて記してました。
野村監督
プロ野球の野村克也 監督
「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」
選手個人としても、三冠王、本塁打王9回、打点王7回、MVP5回など数々の輝かしい実績を持っているが、監督としても、南海、ヤクルト、阪神、楽天で活躍し、数多くの名言を残している。
厳密には野村監督自身の言葉ではないようですが、この言葉を好んで使い、次のように解説している。
試合に勝つと自分の実力で勝ったと思う人が多いが、実際には、相手の状態が万全ではなかったとか、肝心な場面でエラーをしたとか、相手の要因で勝たせてもらったケースも多い。
一方で、負けた場合は、負けた理由が自分自身にあると考えるべきである。相手に対する情報が足りなかったり、技術を向上させる練習が不足していたり、攻め方に工夫がなかったり。
まさに負けに向き合う姿勢を言い表しています。
杉原プロ
ゴルフの杉原輝雄 プロ
「今日ほど、嬉しい負けはありません」
日本プロゴルフのレギュラーツアー28勝で永久シード権を獲得している日本プロゴルフ界のドンと呼ばれる杉原プロも勝負師として知られています。
体格に恵まれないハンデを物ともせず、数々の勝負に挑んで打ち破ってきた杉原プロにとって、心配は自分自身の後継者たる杉原敏一プロの育成でした。
そんな息子との直接対決の日がついにきました。1991年の関西オープンです。
試合は終盤まで、親子で首位争いをする展開で、ついに息子、杉原敏一プロの優勝で決着し、父の杉原輝雄プロは1打差で2位となりました。
この時のインタビューが「今日ほど、嬉しい負けはありません」の一声でした。
勝負師として全身全霊で勝ちに拘って戦い、そんな自分を乗り越えて勝った息子を讃えた。
ここまでの境地に立つにはどれほどの努力を積み重ねて来たのかが垣間見られた瞬間でした。
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