世の中の動きは、めまぐるしく様々なキーワードが生み出されます。
今回は注目の「メタバース」について、岡嶋裕史さんの著作を元に紐解きます。
無尽蔵に増殖する必須キーワード
最近は「できるビジネスパーソンなら必須のキーワード」なるものが否応なく増殖してます。会議など公の場で、うっかり”謎のキーワード”が突如現れたりすると、特に上の立場の人々は中々「知らない」とか、「それ何?」とか言えずに密かに悶々としがちです。
そのような世相を逆手に取って、”知ったかぶり部長” を稲垣吾郎さんがコミカルに演じるCMが秀逸でしたので、少し振り返ってみましょう。これは2021年にOnAir されたYappli(ヤプリ)という、アプリ作成ソフトのCMでしたので覚えている方も多いと思います。
ー場面は販売促進と思しき、ある社内会議ー 稲垣部長の発言からはじまります。
稲垣:自社アプリを立ち上げるのって大変じゃないの?
社員:Yappliなら速攻でできるらしいです。
稲垣:(心の声)Yappliってなんだ?
社員:それにYappliなら簡単です
稲垣:Yappliだもんね(と、知ったかぶりをして誤魔化す)
これに近いことを経験された方も多いかもしれません。
「メタバース」って何だ?
最近では、必須キーワードになっているものの1つに「メタバース」があります。「言葉自体は聞いたことがあるが意味は知らない」とか、「仮想空間のことだと思うが詳しくはわからない」との感想を持たれる方が大半だと思います。
そこで中央大学教授の岡嶋裕史氏の著書「メタバースとは何か」を元に紐解いて行きましょう。なぜ、この本を参考にするのかと言えば、言葉の定義や意味を簡単・明瞭に記載されているからです。この手の解説本はそれでなくても、未知の概念や言葉の意味を厳密に述べることに力が入っています。そのため、初心者の立場では、どうしても「木を見て森を見ず」の思考に陥りやすく、全体像を捉えきれない傾向があります。
「メタバース」の意味する所
岡嶋氏の著作によれば、メタバースとは「ネット上のもう一つの世界」です。さらにこの世界は「現実とは少し異なる理(ことわり)で作られ、自分にとって都合がいい快適な世界」だそうです。
私自身の「メタバース」の理解は、「仮想空間」という物理的な場をイメージしたものでした。それが、この本では「もう一つの世界」とか「自分にとって都合がいい・・」とか、自分が意図的でかつ、創造主として、その世界の中で「ルールを決められる」という領域に踏み込んでます。
つまり、インターネットに作られた工学的な場(WebやSNS、各種動画サイトなどの延長線上)に自分の意志や思想、都合のいいルールなどの独自の世界観を合わせ持ったものが「メタバース」と言えそうです。
「メタバース」の活用方法
では、その「もう一つの世界」を作ることができる「メタバース」をどのように活用できるのか、今後、「メタバース」が社会的なインフラとなり、新しいビジネスのフラットフォームになり得るのかを考えます。
(1)「体験」のデジタルコピー
これまでのWebやSNSと大きく異なる「メタバース」の特徴は、「体験」をデジタルコピーできることです。いうまでもないことですが、「体験」とはリアルの世界で、その場所に、その時間に、そのシチュエーションで自分が遭遇して初めて成り立つことです。だからこそ、感動したり、喜んだり、悲しんだり、怒ったり、満足したり、不満に思ったりという形で、自分自身にフィードバックされます。
このリアルの世界の固有現象である「体験」をデジタルコピー(もちろん疑似体験ですが)して、複製したり、再現できるのが、「メタバース」というわけです。
コンサートや旅行、スポーツ、各種工芸、伝統技術の継承など、体験ものはすべて「メタバース」のコンテンツとなります。
もちろん、「メタバース」には時間や場所の制限がありませんので、近い将来、時空を超えて歴史的な大事件を目撃したり、宮本武蔵のような剣豪と立ち会うこともできるかもしれません。
(2)現実と仮想空間の融合
もう一つの動きは現実の背景に仮想空間で制作された画像や文書などを合成して、現実と仮想が融合した形で活用するものです。こちらの方は、「体験」のコピーよりも既に部分的に実用化されている分野が多くあります。デジタルツインなどと呼ばれる概念と同様です。
建設現場で実際の風景に測量図や図面を重ね合わせて、完成時のイメージを確認したり、既存の建物との干渉状況を確認して未然に不具合を防止するものです。同様に取り扱い説明書や整備マニュアルなども、現場で分厚いマニュアルと格闘することが無くなるかもしれません。
「メタバース」市場性について
「メタバース」のプラットフォームで最初に市場を押さえるべく、MicrosoftやGoogle、Amazon等のIT巨大企業は既に莫大な投資で研究開発を進めています。もちろん、新しい世界が開けたときに先行者に莫大な利益が約束されているためです。
このようにプラットフォームの設立競争へは、既存の日本企業やこれから一旗揚げようとする起業家が飛び込んでも、まず勝ち目はないでしょう。しかし、新しい概念の新しい世界が広大な市場を造ろうとしています。新しい市場ニーズをくみ取り、新しいアイディアの事業展開は十二分に活動の余地があります。まずは、身近のところから取り組むのが良いかもしれません。
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